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Elmar 9cm レンズのこと  [日常]

日本基督教団のとある教会に所属するわたしが、
会報に寄稿した内容です。

いつもはJr.のことを主に記していますが、
そのうちここに登場するレンズを譲る日も
来ることでしょう。そうなると製造から
100年となる日も近い!?

それはそれはすばらしいことのように感じます。

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Elmar 9cm レンズのこと                             

カメラのレンズの話しをしてみたい。
カメラに取り外しができる交換レンズが今回の主人公である。
そのレンズの古びたアルミ製のレンズ保護ケースには、
Leitz Elmar 9cm Germanyの印字がしてある。
Leitzはエルンスト・ライツ社のことである。カメラブランド
最高峰であるライカは、かつてのLeitz(ライツ)社であり、
ブランド名のライカがその後社名となった。
レンズの製造番号はNo.456270、このシリアルから紐とくと、
どうやら昭和13年(1938)製造の年代物のようだ。
なぜ、そのレンズが私の手元にあるのか、
それには少し説明が必要なのでお付き合いいただきたい。

会報用レンズs-.jpg

「ライカは幾らのをかひましたか早くおしへて下さい 
倫ドンは載冠式ですごゐでせう 
載冠式はどんなでしたか?」
昭和12年5月14日に投函されたハガキの差出人は、
角谷和一郎伯父である。このハガキは、
伯父が英国ジョージ六世陛下載冠式見物の為、
三ヶ月欧州旅行していた私の祖父(つまり和一郎伯父の父)
宛てに出した内容の一部である。当時15歳の伯父は、
欧州旅行のお土産として、なんと!
ライカのカメラをリクエストしていたのだった。
滞在中の祖父に念押しの気持ちを込めて
書いている姿が目に浮かぶ。

Elmar 9cmのレンズのキャップには、
SCHMIDT SHOTEN TOKYOの文字。
日本橋三越のそば、東京市日本橋區室町三丁目二
に戦前にあったその店はライカの輸入代理店であった。
伯父はこのレンズをシュミット商店で購入したのだろう。
つまり、祖父がお土産で買ってきたカメラにつける
追加のレンズを購入し、使っていたということになる。
ライカのカメラで何を好んで撮影していたかは、
現在では知る由もないが、Elmarのレンズの絞りリングは
外側の黒塗装が剥げていて中の真鍮が顔を覗かせている。
頻繁に使っていた証拠だと思う。

レンズの持ち主である、伯父とは私は面識がない。
なぜなら伯父はその後学徒出陣で向かったフィリピンで
昭和20年2月に戦病死してしまったからだ。

長男であった伯父は兄弟の面倒をよく見て
いたそうである。バイオリン、絵画、写真、登山、
機械類等多方面に興味を持ち、ライカも肩から下げるのを
恥ずかしがって、風呂敷に包んで手に持っていた。

父が描いたフランス人形の油絵に銀色の額縁を
作ってくれたことなどは、心やさしい伯父の一面が
垣間見られるエピソードの1つである。
当時の絵も額縁も共に残っており、
私の実家の玄関に飾ってある。

最近になって、叔父の一人から父がこのレンズを
受け取り、そして今、私が保管している。
アルミケースを開けレンズを取りだしたが、
ずっと誰にも使われることなく時が経過したそのレンズは、
小ぶりながらずっしり重たかった。
調べるうちに、おぼろげながらではあるが
このレンズについて、少しずつわかってきたので
この場を借りて書いている。

特に驚きなのは、いまだ日常で使えるということである。
専門の業者でオーバーホールをおこないはしたが、
製造から73年経過したレンズと、
現代のデジタルカメラ(Sony NEX-5)がひとつになって
画を作り出しているというのは、うまく表現できないが
それは、それは不思議な感覚である。

伯父が大事にしていたレンズを手に取りながら、
自宅の一室を改造して暗室にする程、好きだった
写真の趣味を途中で止めざるを得なかったことは
とても辛かったことと思う。自分が撮られるのは
大嫌いでも、他人を撮るのが好きだったという伯父は、
もっともっと人や風景など、数々の一瞬を撮りたかった
であろう。先日このレンズを持参し、八ヶ岳で
撮った1枚をここに掲載したいと思う。


会報用八ヶ岳s-.jpg
NEX-5 elmar 9cm f4


私も中学の頃から写真を撮るのが好きである。
はじめは飛行機ばかり撮影していたが、その後被写体は、
風景や何気ない一瞬を切り取るということに変わり
今ではもっぱら2才になった息子を撮る日々である。

写真を撮っていると、これは神の国の入口では?
と思う風景に、ごくごく稀にだが出会うことがある。
神の国は目に見えないがこれからも写真を通して
この素晴らしい日本の、世界の風景や人々を撮影
していきたいと思う、

elmar 9cmのレンズを使いながら、、、、、。



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コレカウ

半世紀以上に渡り歴史を切り撮ってきたレンズ。

MaMiMuさんがそのレンズを手にするまで、誰か使ってくれやしないかと今か今かとジっと待ち続けていたのでしょう。
しかもそれが現代の最新デジタル一眼レフで楽しむことができる。

時は流れようとモノの本質は変わらない。
そのレンズを通して覗く世界はとてもとても特別な世界なんだと思います。本当に素晴らしい逸品ですね!

レンズの素晴らしさもさることながらワタクシ的にはアルミの保護ケースがヒジョーに気になりますワ(笑)
by コレカウ (2011-06-08 21:46) 

MaMiMu

時は流れようとモノの本質は変わらない。

なにか素敵な小説の書きだしのような雰囲気を感じました。
才能ありますね。

いつも恐る恐る、覗きみるコメント投稿欄ですが、
書き込みをしていただきありがとうございます。

純粋にうれしいです。
by MaMiMu (2011-06-09 01:29) 

まんぼ

ひとつのモノから、物語が生まれる。
叔父、甥の小さな絆。

便利性や効率化から生まれるモノからは感じない人の心。

また、MaMiMuさんの写真も文章がいいですね。

神が現した「モノ」を、また、見せてください。
by まんぼ (2011-06-11 06:24) 

ボス

NEX-5 elmar 9cm f4で撮った八ヶ岳の写真は、
何か神々しさを感じた。

世代を超えて受け継がれるモノには普遍的な
価値がある。

やがていつかJr.君へと引き継がれる日まで、
星野さんのようにいい写真を撮り続けていっ
てほしいと願う。
by ボス (2011-07-03 18:10) 

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